「楽園」記者発表レポート

5月1日(月)16時より「楽園」の記者発表を劇団稽古場にて行いました。
急な日程にも関わらず多数の記者さまにご出席いただきました。改めてお礼申し上げます。

★記者の皆さんにお配りした企画書の「楽園」についてとあらすじを是非お読みください★


「楽園」について

友人達と一杯やって、ギリギリ終電に飛び乗った。
駅に着くと足早やに家路につく人達の後ろ姿を追うように改札へ向かう。
左右に分かれて北口、南口から深夜の町に消える。
その群れが散ると、寝静まった駅前に、放置自転車が淋しそうだった。
持ち主は、どこへ行ってしまったのか。
もう、到着する電車は無く、誰も改札から出て来ない。

宝塚線の事故の後、あの日、駅に止めたまま放置された自転車が何台あったのだろう?ふと、そんなことを考えた。
以降、駅前で何日も放置されている自転車を見る度に、持ち主の安否を思う。
確か、「楽園」を書くきっかけは、そういうことだった。
幸いあの電車には乗り合わさず、しかし、身近な誰かを失えば、今度は、この世に残った自分の方が放置された自転車になった気はしないだろうか?
ポツンと孤独な時間に呆けるばかり。
何か、心に空いた隙間を埋められやしないだろうか?
それ探しながら書いてみよう。そうしたら「楽園」が出来上がっていた。

おそらく、埋めようもない孤独をかかえているからこそ、賑やかに飲んで笑う居酒屋のお話しだ。
埋めようとすれば苦しむばかり、埋めようもないと思えば、孤独とのつき合い方は、いくらでもある。
そのうちの幾つかが、物語の中に転がっている。
ややっこしくて、面倒くさい。やかましくて、思わず笑ってしまう。

そんな孤独達の作品です。

内藤裕敬


あらすじ

駅前から商店街を抜けた外れに、居酒屋・最後の楽園はあった。
いつもの常連客が、いつものように賑やかに飲んでいるが、一つだけ、いつもと違うのは、今日は、特別な日で、毎年、この日は飲み放題となるらしい。
そこへ、ひょっこり現れたのは、隣り町で仕事をミスし、道に迷って一駅歩いて疲れきった坂田という若いサラリーマン。
極度の方向音痴で、彼の人生も迷いっぱなしらしい。
そこへ次々に現われるパチンコ狂いのリンちゃん、チカンで捕まり冤罪を叫ぶケンちゃん。
と、迷いっぱなしの常連客達も次々に来店し、数年前の列車事故から、最後の楽園と常連客達の人生が大きく変わってしまったことが明らかになり、誰もが胸に抱える孤独を埋められずこの店に集まっていることがわかって来る。

孤独を分け合いながらも、再生へ歩みだそうとする酔っぱらい達の、明るく賑やかで、大笑いのドタバタ劇です。


8年振りの再演!初演との違いは?

台本は細かい所は書き直ししています。暴れているが台詞劇に近いですね。
初演の時よりもしっかりと一人一人の役柄に焦点を当てて、細かく稽古しているのでだいぶアンサンブルが変わっている。
背景にある不慮の事故と言うのがありながらもそこから生まれた現在の人間関係みたいなものがしっかりとテーマとして浮かびあがりそうだと思ってます。

中盤から後半にかけてとても難しい芝居になっているので、改めて読むと自分でもよくこんな難しいのを書いたなぁと。
ただやれば出来るなという手応えは感じてます!
そこは俳優と共有しながらやっていますので、俳優も取り組まなきゃいけないものが具体化してやってますから良い作品になると思います!

駅前の放置自転車を見たときに、あの日、駅で降りてこの自転車に乗って夜帰るはずの人が何人帰ってこなかったか。
ポツンと自転車が待ってるとすると寂しい話だなって思ったのが何かお芝居にできるかなっと言う発想につながって広がった訳ですけども。
当時書いた時の喪失は、喪失をどう埋めようかって必死になるとか、なんとか埋められないだろうかと言う内面性だったんだけど。
今回は諦めに近いところもあって、埋められないのはわかっているんだ。
取り返しもつかない。
埋められないのはわかっている上でどう生きていけば良いのかって言う風な時間の経過になっている、僕の中では。
そうするとそれは誰でもそうじゃないの?って。
事故のことよりもそういう今生きているって言う事の方にウエートが乗ってくるんじゃないかなって。

喪失がこれからの時代のキーワード

そう実感したのは、現在お年寄りになっている人たちに劇作家が取材をして個人史をモチーフに台本を書いて上演する。
過去と過去の話しがどう現在に生きているのかみたいな視点も含めて演劇になるんじゃないかっていうのを10年やったんです。(北九州芸術劇場主催「Re:北九州の記憶」)

おじいさんおばあさん達にしてみれば現在の北九州がこんなになるなんて夢にも思ってなかった。
で君たちはどうなの?君たちは未来に何を見てるの?って出演している若い俳優に聞いたら「私たちはあまり自分たちの未来にキラキラしたものは見てません。」って言うのよ。ちょっとショックで!

僕は高度成長期に生まれて、どんどん日本が進歩して綺麗に、便利になって行く中をずっと生きて来ましたし。
僕が30歳過ぎからバブルが始まって40歳過ぎにバブルが崩壊するわけですけど。
そこからしばらくバブルの勢いが多少社会にはあったけど、どんどんデフレが進みそれが改善されず現在に来ているのを体験してきて。

子供の時からきっと未来は今よりもっと明るく良い世の中になって行くだろうと言われて育ってきたし、それを信じてきましたので、未来にキラキラしたものを見て来てないって、その若者の感覚がわからなかったですね。
具体的にどういうことかって聞いたら、とにかく年金はダメですって言うんです。
多分、僕らはもらえないんじゃないかって諦めている。
そうすると何か老後をささやかに生きて行く希望を見出せない今を働かなければならない。
同時に台風はひどくなるし、四季の移り変わりもだいぶ変わってきているのは実感すると、温暖化がだいぶ手遅れになってんじゃないのと。
ここで今やったところですぐには止まんないだろうから、あと50年もしたら全く違う自然環境になってるんじゃないかみたいなことも含めて、何かあまりこう自分の未来に明るいものを期待ないって言うことなんですね。まぁ、もっともだと思って!

僕らは、僕ぐらいの年齢(63歳)がギリギリ年金逃げ切り世代なんて言われてますけど、50年後には多分俺は生きてないので、それは今の若者たちが頑張ってもらわなきゃ困るんだけど。
高度成長とか経済で獲得競争をやって便利になったし獲得してきたけど、そのあおりが今来て、さまざまを諦めて行かなきゃいけない時代になるのかなと。
ま、そうするとこれからは喪失とどのように向き合っていくかを明るく描いて行かなきゃならないのかなってちょっと僕は思ってて。
そう言う意味では「楽園」は事故と言うのが暗喩になって、さまざまな喪失とどう向き合ってどう明日を生きるかいうような事を明るく描いている作品です。

喪失を抱えてそれを埋めようとする、埋められないのをわかったうえで明日を生きていこうとすれば、それを毎日戦っていかなければ生きていけない訳で。
劇中で「戦場にいるみたいだ」とリンちゃん(鴨鈴女)は言う訳ですけども!それはその人達だけではなくて、僕たちも自分の内面と戦いながら日常を生きていますので。
そういう事が事故とは無関係にお客さんの中で現在かかえている日常みたいなものも、突っついてくれれば良いかなと言うような仕上がりになっていると思います。
私の作家としてのこれからを見る上でもこの再演はとても重要な位置づけになっているということです。
これから書く新作は「喪失」がしっかりとどこかに描かれると思いますよ!

本質的な価値とスタミナ!!

一場面で最後まで行きます。
さまざまなテーマやモチーフなどがここで展開されて転がって転がって最後まで行くという。
途中でチャンネルを変えるとか早送りするとかって言うそういうスピード感で移り変わっていくような作品ではなく、ワンスチュエーションでずっと引っ張っていけるのが演劇の価値だと思っているので、それ出来なくなったらテレビに負けていくと思うので。

そういう演劇の特色みたいな生身の人間がやっていくスタミナみたいなものとか、あと物語やテーマのスタミナみたいなものが全部嚙み合って、もうこれ以上無理だって所まで場面変えないとか時間を変えないとかっていうのが僕は演劇の本質的な価値だと思ってますのでそれをキッチリと!

主要キャストは?

方向音痴の男、これがことの始まりの男で坂田を丸山文弥。新人劇団員です!!

事故以来ギャンブル依存症になって博打ばっかりやってるおばちゃん、リンちゃんを鴨鈴女。
ギャンブルで取り返すことによって自分が決して取り返せないものまで取り返した気持ちになりたいとギャンブルにのめり込んで行ったという背景もあります。

事故以前に満員電車で痴漢をして捕まり、裁判の結果懲役になり数年後に戻ってきた男、ケンちゃんを有田達哉。

またその男を未だに追いかける尻を触られた女性、ノンちゃんを松浦絵里。

オーディションのメンバーは?

今回は6人です。大阪芸術大学の学生や卒業生、咲くやこの花高校出身や京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)卒業生、万歳2回目の出演など、面白い多彩なメンバーですよ!ご期待ください!!

1列目:向かって左から石川千紘・堀口桜・Emisa 2列目:向かって左から福井洸太・長山知史(創造Street/大旅軍団)・木下健(短冊ストライプ)

内藤さんの役どころは?

居酒屋の話ですから、ずっと舞台で最初から最後まで飲んでます!!

最後に一言!!

毎日元気よく稽古してます!そうとう笑えますよ!!


初演は2015年、8年振りの再演となります!!
コロナ過が続き、孤独を抱えていてさえも賑やかに飲んで笑うこともできなった昨今。
劇場ではマスクやフェイスガードをつけ、大声で笑うこともついつい気を使う・・・。
しかし、もう大声で笑っても良いですよね!笑ってもらいたい!!
喪失や孤独のその中に「楽園」はあるのか、「楽園」の中に喪失や孤独があるのか?!
2023年の「楽園」は一体どこに向かうのか・・・一緒に行きましょう、私たちと「楽園」へ!
劇場でお待ちしております。

制作部:南河内万歳一座