空晴+南河内万歳一座☆オールスターズ「隠れ家」の記者発表が11月12日、AP大阪駅前梅田コンベンションルームにて行われました。
内藤裕敬による作品の構想、そして今回タッグを組む、空晴代表の岡部尚子さんの意気込みなど、読み応え十分の記者発表レポートです。
今回の作品を作るに至ったのはいくつかの出来事が軸になっています。
先ずは、東京の新宿駅で盗撮をした男が捕まって、彼がホームから飛び降りて、線路の上を逃げたんですね。
そいつは振り向きもせず、一目散に線路の上を走っていくんです。
それを見ていて、どうしても気になる事がありました。
都市の真ん中にあれほど広い空き地が存在して、そこを誰も追わずに一人で走っていく絵がショックだったのです。
彼は何から逃げているのだろうか?
当然、捕まったら洒落にならないので必死に逃げたんでしょうけど、とにかく遠くへ行こうと走る、走る。
最初は具体的なモノに追われていたけれど、おそらく逃げながら、自分が仕出かした過去を後悔しながら、過去に追いかけられていたのではないか。
同時に次には、これで捕まったらこうなってああなって、職を失い、仲間の信用を失い…まだありもしない未来が襲い掛かってくる。
最初は具体的なものに負われていたのが、逃げているうちに、やってしまった過去と有りもしない未来に追われている。
そのうち、やってしまった過去を悔いるよりも、これから来る悲惨な未来に追われる方が強くなって、最終的には未来に襲われているなぁという気がした訳です。
つまり、僕も未来に襲われている。おそらく、今を生きている人はきっと、何らかの形で未来に襲われながら今を生きている。
そういうふうに言えば、おそらくお客様はみんな思い当たる節があるのではと思うのです。
未来に襲われている、つまり未来に対する不安の中に今があるというのは、今に始まったことでは無くて、ずっと以前からそうだったはずだけど、その時に、不安を直視する事は辛いし、しんどい。何とか目を反らして生きていけないか、何か逃げ場は、隠れ家は無いか?
かつては信仰とかお祭りとか、五穀豊穣を願ったり、豊年満作を御礼したりすることで、今に生きる不安みたいなものから目を反らし、前を向けるようになったのではないでしょうか。
昔は台風の進路も予測できなかったし、どんな出来事が起きるか予測できなかったけれど、現代になって台風がどのルートが通るか何日も前に予想が出来て、農家の人も収穫の準備が出来るようになりました。
まあ、準備をしたところで大きいのが来れば、青森のリンゴみたいにひとたまりもないんだけど、科学がかつての信仰にとってかわり、直面する不安をあらかじめ予測し、対策がとれるようになりました。
そういう意味で、昔よりも今を生きる不安は減っているはずだと思うけれど、科学が新たな不安を呼んでいる事もあります。
僕らが今襲われている未来とは、昔の人たちの襲われたモノとは違う未来に襲われています。
そういう現実の中に生きている僕らは、過去の事を振り返ったり、まだありもしない数年後の未来を夢見て、結局、自分が今ここに居るという事実を確認する事が少ないように思います。
つまり今にいる事とはどういうことか分からない。今とは、過去と未来を行き来してるだけで、現在という時間軸がないという気がしています。
自分は今、この時間、ココにいるなぁと思える時ってどういう時だろうか。
行き着いた答えは、それぞれがそれぞれ日常の中に、その人だけの一瞬の隠れ家や逃げ込む場所を持っているのではないか。
じゃあ、今に生きる人の隠れ家を遊んだら、色々なモノが見えて来るんじゃないのか?
というのが今回のモチーフとなっています。
これから活字に起こして、最終、どんな話になるかワカラナイけど、単にバカバカしいだけでなく、きちんと文学性も兼ね備えたものにしたいと思って、現在真剣に取り組んでおります。
というところでしょうか。
以下、記者さんの質問に対する受け答えです。
―― 今回、空晴との合同公演ですが、一緒にやるきっかけは何ですか?
内藤:万歳一座は2020年に40年目を迎えます。
その前に色々、普段やらなかったことをやろう。身近な劇団とノウハウを共有したり、万歳一座の作風をもっと拡大する形で出来ないかと、仲の良い劇団との合同公演を企画。その第一弾が空晴。
合同公演は意外と難しい。お互いに仲良く、真摯に関心を持っている劇団と一緒にやろうということで決まりました。
彼らとは付き合いが長く、旗揚げ当時から応援しています。役者も全員、万歳一座の芝居に出演してもらっています。
岡部尚子さんは1997年に万歳一座のオーディションを受けて、落ちる羽目に合われています。
ひとえに私に見る目が無かった。しかし、その事があるので今の空晴がある訳で…。
ご期待ください。
―― 空晴と合同でやる事で、普段にはない面白さとかありますか?
内藤:最初は空晴の作風を引っ張ろうかなと思ったんです。
家庭劇のテイストが壊れていく、万歳的にデフォルメされていくみたいの事を考えたけど、それって空晴のパロディをやっているみたいになるのでやめようと。
逆に普段、空晴の劇団員が体現しないようなセリフや役柄をぶつけてみるとどうなるか。
そっちの方が興味あるし、空晴のファンの皆さまも喜んで頂けるのではと思っています。中心になる3人は空晴の役者にやってもらいます。
―― 岡部さんにとっては、普段とは違う作風ですが?
岡部:元々オーディションを受けるくらい大好きな劇団なので楽しみです。
空晴ではやらない事を、ファンの皆さんがどういう風に見て頂けるのか…。
見せ方は違うけれど、内藤さんのテーマとかモチーフはいつも共感するんです。
逸脱したバカバカしいシチュエーションで遊べるのはとても楽しみです。
最後に内藤裕敬からメッセージです。
これまでは10年、20年、30年と、周年記念で1年間休んできました。
さすがに40年で休団はないなあと。
40周年は、40年まるまるやった後の2021年に劇団として少し大掛かりな活動をやろうかなと思っています。
来年、40周年カウントダウンの2年目としては、6月の公演では、リクエストがいちばん多い、劇団の代表作「唇に聴いてみる」を再演します。
時代と照らし合わせて、思う所も多々ありますが、三一書房の「現代日本戯曲大系」に載せて頂いていることもあり、あまり書き換えたく無い思いもある。
どうなるか、お楽しみに。
12月の公演は、師匠 秋浜悟史の弟弟子の劇団「いちびり一家」と一緒に合同公演をやろうと思っている。
彼らを九州や東京に紹介したい思いが強い。
これからもよろしくお願いします。